はじめに
美術館に飾られている、数百年前に描かれた西洋の名画たち。 人物の影や、背景に使われている、あの深みのある美しい「茶色(褐色)」。
「綺麗な色だなあ」と見とれてしまいますが、もしその絵具の原料が、 「墓から掘り起こした、人間の死体(ミイラ)」 だったとしたら、どう思いますか?
都市伝説ではありません。 実は16世紀から19世紀にかけてのヨーロッパでは、エジプトのミイラを粉々に砕いて作った絵具が大真面目に使われていたのです。
その名は「マミーブラウン」
その絵具の名前は、隠すこともなく**「マミーブラウン(Mummy Brown)」。 直訳すれば「ミイラ茶色」**です。
当時のヨーロッパでは、エジプトから大量のミイラが輸入されていました。 ミイラ作りには、防腐剤として**「アスファルト(歴青)」や樹脂が使われており、これが長い年月を経て熟成されることで、「透明感のある、非常に美しい褐色」**を生み出すとされたのです。
画家たちは、この色が喉から手が出るほど欲しかったため、画材屋に行っては、 「いい色のミイラ(絵具)をくれ」 と注文し、キャンバスに塗りたくっていたのです。
薬としても飲まれていた
さらに驚くべきことに、ミイラは絵具になる前は「万能薬」として信じられていました。 「頭痛、腹痛、打ち身になんでも効く!」 と言われ、ミイラの粉末は薬局で高値で取引されていたのです。
つまり当時の人々は、 「ミイラを飲んで病気を治し、ミイラを塗って芸術を作っていた」 という、現代から見ると狂気とも言えるブームの中にいたのです。
画家も知らなかった?
実は、この絵具を使っていた画家の中には、 「名前はマミーだけど、本当に死体が入っているわけじゃないでしょ?」 と思っていた人も多かったようです。
「民衆を導く自由の女神」で有名な画家ドラクロワも愛用していましたが、ある時、 「本当に人間をすり潰している」 という事実を知った画家が、ショックのあまり持っていた絵具チューブを庭に埋葬して供養した、というエピソードも残っています。
なぜ消えたのか?
この恐ろしい絵具は、1960年代頃まで細々と製造されていました。 生産が終了した理由は、倫理的な問題……ではなく、 「エジプトから手頃なミイラが枯渇したから(在庫切れ)」 という、あまりに即物的な理由でした。
「もう猫のミイラくらいしか残ってないから、絵具が作れないよ」 と、メーカーが生産を諦めたと言われています。
まとめ:名画の中に眠る人々
- 昔の絵具「マミーブラウン」は、本物のミイラを砕いて作っていた
- 16世紀〜19世紀のヨーロッパで大流行した
- ミイラは薬としても飲まれていた
- ミイラの在庫が尽きたため、生産終了した
今、私たちが使っている茶色の絵具は、鉱物などを合成した安全なものです。 しかし、もし美術館で19世紀以前の古い油絵を見る機会があったら、 「この茶色い影の中に、数千年前のエジプト人が眠っているのかもしれない……」 と想像してみてください。 絵画の美しさが、少しだけ怖く見えるかもしれません。



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