はじめに
デパート、ホテル、学校、駅……。 どんな建物に行っても必ず設置されている、緑色の「非常口(ピクトグラム)」のマーク。 人間が走って逃げようとしている、あの有名なデザインです。
世界中どこへ行っても見かけるこのマークですが、 「実は、あのデザインは日本人が作ったもの」 だということをご存知でしょうか?
今回は、日本で生まれ、世界標準(ISO)となった非常口マークの誕生秘話について解説します。
きっかけは「デパート火災」
あのマークが生まれるきっかけとなったのは、1970年代に日本で立て続けに起きた大規模なデパート火災でした。
当時、非常口の表示は「非常口」という「漢字」で書かれたものや、赤色の電球が一般的でした。 しかし、火災の煙が充満する中では、「漢字」は読みづらく、「赤色のライト」は炎の色と混ざって見分けがつかなくなってしまったのです。 その結果、多くの人が出口を見つけられず、逃げ遅れてしまうという悲劇が起きました。
「誰でもわかる」デザインを求めて
「煙の中でも見やすく、子供や外国人でも一瞬で意味がわかるマークが必要だ」 そう考えた日本政府は、新しい非常口のデザインを公募しました。
そこで選ばれたのが、あの「走って逃げる人」のデザインです。 文字を使わず、シルエットだけで「ここから逃げられる!」と直感的に伝わるこのデザインは、まさに画期的な発明でした。
日本から世界へ
その後、国際標準化機構(ISO)が「世界の非常口のマークを統一しよう」という会議を開いた際、日本はこのデザインを提案しました。 ソ連(当時)などが提案したデザインと競いましたが、 「一目で意味がわかる」「緊迫感が伝わる」 という点で日本のデザインが圧倒的に評価され、1987年に世界標準として採用されたのです。
今、世界中の空港やホテルであのマークを見かけるのは、日本のデザインが採用されたからなんですね。
なぜ「緑色」なの?
ちなみに、なぜ赤ではなく「緑色」なのでしょうか? 理由は2つあります。
- 炎(赤)との対比 火事の時、赤い炎の中で「赤い表示」は目立ちません。緑色は赤の反対色(補色)なので、赤い炎や煙の中でも最も浮き上がって見えやすいのです。
- 安心感の色 赤は「止まれ」「危険」を意味しますが、緑は「進め」「安全」を意味します。「ここは安全な出口だよ」とパニックになった人を落ち着かせる心理効果もあります。
まとめ:日本の誇り高きデザイン
- 非常口の「逃げる人」のマークは日本発祥
- 過去の火災の教訓から、文字を使わないデザインが生まれた
- 分かりやすさが評価され、世界標準(ISO)になった
- 緑色は、炎の中で一番目立つ色だから
普段、空気のような存在の非常口マーク。 もし街で見かけたら、「これは日本が世界に贈った、命を守るデザインなんだ」と誇りに思ってください。


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