はじめに
車や船に乗っていて、だんだん気分が悪くなり、最後には吐いてしまう「乗り物酔い」。 楽しい旅行が台無しになる、嫌な現象ですよね。
「三半規管が弱いから」 とよく言われますが、そもそも「なぜ揺れると『吐く』必要があるのか」、考えたことはありますか? 揺れるだけなら、めまいがするだけで良さそうなものです。わざわざ胃の中身をぶちまける必要なんてないはず。
実は最新の進化医学の説では、あれは「脳による、ある壮大な勘違い」が原因だと言われています。
目と耳の情報がズレる
乗り物酔いが起きる時、体の中ではこんなことが起きています。
- 【目】の情報: スマホや本を見ていると、視界は止まっています。「私は動いていない」と脳に報告します。
- 【耳(三半規管)】の情報: 車の揺れを感じ取り、「私は激しく動いている」と脳に報告します。
脳の司令室には、この「矛盾した情報」が同時に届きます。 「おや? 目は止まっているのに、耳は動いていると言っているぞ……?」
脳「これは毒だ! 緊急排出せよ!」
自然界(原始時代)において、「目は止まっているのに、平衡感覚がおかしい(揺れている)」という状況は、一つしかあり得ませんでした。
それは、「毒(神経毒のあるキノコや植物)を食べて、幻覚を見ている時」です。
脳はパニックになります。 「視覚と平衡感覚がズレている! これは神経がおかされている証拠だ! さっき変なものを食べたに違いない!」 「命を守るために、胃の中身をすぐに捨てろ!!」
こうして脳は、体を守るために「嘔吐中枢」を刺激し、無理やり吐かせようとするのです。 これが、乗り物酔いの正体です。
運転手が酔わない理由
ちなみに、運転手が酔わないのは、「自分の操作と、景色の動きが一致しているから」です。 脳が「次にどう揺れるか」を予測できているため、目と耳の情報にズレが生じず、毒判定が出ないのです。
逆に、助手席や後部座席でスマホを見ていると、予測できない揺れと静止した画面のギャップで、脳が即座に「毒だ!」と判断してしまいます。
酔い止め薬は「脳を麻痺させる」
では、酔い止め薬はどうやって効いているのでしょうか? 多くは「抗ヒスタミン成分」などが含まれており、「脳に『ズレているよ』という情報を伝わりにくくする(感覚を鈍らせる)」働きをしています。
つまり、 「毒じゃないよ、大丈夫だよ」と説得しているのではなく、 「脳の警報スイッチを一時的に切っている」 状態に近いのです。だから眠くなるんですね。
まとめ:現代文明に追いつけない脳
- 乗り物酔いは、目と耳の情報のズレ(感覚不一致)で起こる
- 脳はそのズレを「神経毒による幻覚」だと勘違いする
- 毒を体外に出すために、防衛本能として「嘔吐」させる
- 遠くの景色を見ると治るのは、目と耳の情報が一致するから
車という便利な乗り物ができてまだ100年ちょっと。 私たちの脳(OS)はまだ原始時代のままで、高速移動に対応できておらず、 「うわぁぁ! 毒だぁぁ!」 と毎回パニックを起こしているのです。 そう考えると、あの辛い吐き気も、ちょっと可愛く(あるいはポンコツに)思えてきませんか?


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