はじめに
大切な人が旅立つ時。病室のベッドで意識を失い、呼びかけにも応じなくなった姿を前にすると、私たちは深い無力感に襲われます。「もう、私の声は届かないのだろうか」と絶望を感じることもあるでしょう。
しかし、諦める必要はありません。たとえ深い昏睡状態にあっても、「あなたの声は、最期の瞬間までしっかりと届いている」可能性が極めて高いことが、近年の脳科学の研究によって明らかになってきました。
これは単なる気休めやスピリチュアルな話ではなく、学術的にも注目されている科学的な知見なのです。
脳は「音」に反応し続けていた
2020年、カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究チームが、学術誌『Scientific Reports』にて衝撃的な研究結果を発表しました。
研究チームは、ホスピスで亡くなる直前の患者たちの脳波を測定。彼らは意識がなく、呼びかけにも全く反応しない状態にありました。しかし、彼らの耳元で複雑な音や音楽を聞かせると、驚くべき現象が起きたのです。
なんと、「健康な人とほぼ同じように、脳の聴覚野が反応を示した」のです。
この反応は、亡くなる数時間前であっても変わりませんでした。体が動かせず、言葉を返すことができなくても、脳の中では「音を聞き、それを処理しようとする機能」が、スイッチが切れる直前まで働き続けていたことを示唆しています。
なぜ「聴覚」が最後まで維持されるのか?
五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の中で、なぜ聴覚だけが最後まで残るのでしょうか。
有力な説の一つとして、「聴覚は生存に直結する、最も原始的で警戒心の強い感覚だから」だと言われています。私たち人間を含む動物は、眠っている間でも、危険を知らせる音を聞けば瞬時に反応できるよう進化してきました。耳は24時間、生命を守るために働き続ける「命の番人」のような役割を果たしています。
そのため、生命の灯火が消えようとするその瞬間まで、聴覚のネットワークは維持されやすく、外の世界(あなたの声)と繋がる最後の窓口となってくれるのです。
「ありがとう」の想いは届いている
多くの人が、大切な人を見送った後、「最後にちゃんとお礼を言えなかった」「もう聞こえていないと思って、黙って見守るだけだった」と後悔を口にします。
しかし、この科学的データが教えてくれるのは、「最期のお別れに、遅すぎるということはない」という希望です。
たとえ手を握り返してくれなくても、たとえ表情が変わらなくても。あなたが耳元で囁いた「ありがとう」「愛してる」「お疲れ様」という言葉は、鼓膜を震わせ、脳へと届き、その人の心に寄り添いながら旅立ちを支えたはずです。
まとめ:最期の瞬間まで続く「心の会話」
- 脳波の研究により、意識がない終末期の患者でも「聴覚」が機能している可能性が高いことが判明した。
- 耳は生存に不可欠な原始的な器官であり、意識が消失した後も最後まで外界と繋がる機能を維持しやすい。
- 反応がなくても、あなたの声や想いは脳で処理されており、確実に届いていると考えられる。
もし今後、誰かを看取る時が来たら、あるいは過去に大切な人を見送った経験があるなら、どうか信じてください。その別れの瞬間、二人の間には、言葉を超えた「確かな繋がり」が存在していたのです。


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